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大口(おほくち)の真神(まかみ)の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに 舎人娘子『万葉集』
鹿のかげほそりと駈けて通りけりかがやき薄き冬の日の芝 北原白秋『夢殿』
月影のいたらぬ里はなけれどもながむる人の心にぞすむ 法然上人
疲れれば塩を恋いつつ店先の赤むらさきの柴漬けを食ぶ 吉川宏志『曳舟』
最近はこの本をゆっくりと読んでいる。選歌にはある程度の偏りはあるものの、しかし型にはまらない自由さがある。その別次元・別の時間をもつ歌が(ときに俳句が)選歌により共存しているところがたのしい。
冬ひなた御所の砂利道しづかなり絵の具溶くひと幾人(いくたり)か見つ 河野裕子
 砂利の敷き詰められた道がまっすぐ北へ、御所の正面の建礼門へ
 と続いていた。道の両側は広々と芝生が敷かれていて、木がまばら
 に立っている。その下で絵を描く人、散歩する人、自転車で走る人の
 姿があり、のびのびとした自由な雰囲気に驚いた。
 …(略)…
どの門もひたりと黒く閉ざされて京都御所まつ黒に膨れつつ昏る 河野裕子
歌をつなぐようにおかれた散文もよい。朴訥とした私小説のような語り方のときもあれば、わかりやすい解説のようにもなる。この本には森のような多様性がある。

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