『豆腐屋の四季』(松村)
京都は今日も晴れ。
たまたま立ち寄った本屋で、松下竜一『豆腐屋の四季』を見つける。
講談社文芸文庫の一冊として復刊されたようだ。
何度も読んだことのある本だが、復刊を喜んで購入。
家業の豆腐屋を継いだ青年の、短歌と散文とで綴られた青春の記録
である。最初の刊行は昭和43年。
豆腐いたく出来そこないておろおろと迎うる夜明けを雪降りしきる
雪ごもる作業場したし豆乳の湯気におぼろの妻と働く
睫毛まで今朝は濡れつつ豆腐売るつつじ咲く頃霧多き街
ひと釜の豆乳煮あげて仰ぐとき月にひそかに暈は生れいつ
切り分くる豆腐五十の肌ぬくくほのかにしたし冷ゆる未明は
後に『風成の女たち』『砦に拠る』『ルイズ 父に貰いし名は』など
社会派のノンフィクション作家として知られるようになる松下竜一。
その出発点に短歌があったことは、不思議なような、それでいて
よく納得できることのような、そんな気がするのである。
生前の氏には一度だけお会いしたことがある。
大分市で開かれた小さな集会の場であった。
「医者には止められている」と言いながら、元気に熱く語っていた姿を
懐かしく思い出す。