黒き魚の鰭
1985年9月の上旬、夢を見た。
私はどこかの書店で「葛原妙子歌集」を買おうとしている、
が、棚の高いところにあり、手が届かない。脚立がぐらぐら揺れて、
怖い。私は必死に手を伸ばすが、届きそうで届かない。
そのあたりで目が覚めた。
しばらくすると義母から航空便が届き(当時私は滞米中だった)
「葛原妙子さんが亡くなりました。」とあった。
1985年9月2日没。享年七十八。
知人の中には「もう、飽きたわ、葛原はもういいわ」という人もいる。
でも、私は葛原病に三十年余かかりっぱなし。そして
もう、回復したくない、呪われているのならこのまま呪われ続けたい。
と思うのである。
硝子箱に黒き魚の鰭うごき 己が影より逃れむさかな
葛原妙子『葡萄木立』
おほいなる墨流(すみながし)すなはちガンジスは機上の夢魔のあはひに流る
葛原妙子『朱霊』
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