花束(前田)
永田さんと河野さんの言い争いを一度だけみかけたことがある。
何かの美しい包み紙を永田さんが捨てようとしたら、裕子さんがそれは要ると横から言った。永田さんはこんなのいらないよと、何か裕子さんに小言を言った。
その時私は裕子さんをかばいたくて仕方なかった。
塔の原稿を裕子さんがうちに持ってきてくださっていた頃、庭の花を少し切って小さなブーケのようにしてわたしてくださることがあった。
それは、一重のくちなしや、上品な紫陽花だったような気がする。
美しい包み紙でリボンもかけてくださってるときがあって、思いがけない贈り物に、心がとても和んだ。
花の匂いだけでなく、庭の匂いのようなものがその花束にあった。
そんなことをエッセイ『桜花の記憶』を読みながら思い出してとても切ない気持ちになった。
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