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20151123長谷八幡                    「塔」の割付・再校作業でした。
写真は永田家の近所の長谷八幡宮にて。銀杏の紅葉ももうすぐ終わりです。

さて、前回の再校の際にこのブログで取り上げました「せし問題」。これに並ぶのが「たり・り問題」です。松村正直さんも短歌雑誌や歌会で問題になる文法事項の一つとして挙げておられました。今日はその好例(?)がありましたので記しておきます。

誤:加へり → 正:加へたり

「たり」「り」はともに完了・存続を表す文語助動詞です。ルールは二つ。

①「たり」は動詞の連用形につく
②「り」は四段活用動詞の已然形とサ変動詞の未然形につく

つまり「たり」はどんな活用の種類の動詞にもつくオールマイティー助動詞だけれど、「り」を使うときには、活用の種類を確認しなければならない、ということです。

動詞「加ふ」は下二段活用(へ・へ・ふ・ふる・ふれ・へよ)ですから、「り」をつけることはできません。必ず、

加ふの連用形「加へ」+「たり」→「加へたり」

となります。

作歌上「たり」として音数が増えるのがいやならば、助動詞「つ」「ぬ」を使って
「加へつ」「加へぬ」とする選択肢もあります。ニュアンスや音の響きは「たり」「り」とは多少変わってしまいますが。文体自体が変わってくるかもしれませんが、口語の動詞の終止形「加へる」とするのも選択肢の一つです。

もう一つの好例「開く」を見てみましょう。ある歌に「開けり」とあり、耳慣れない感じがするという声が上がりました。しかし確認すると、文語動詞「開く」はカ行四段活用(か・き・く・く・け・け)なので、ルール②により、「り」をつけることができます。

「開く」の已然形「開け」+「り」→「開けり」

もちろんルール①によって「たり」をつけることもでき、その場合は

「開く」の連用形「開き」+「たり」→「開きたり」

となります。自動詞「開く」(~が開く)も、他動詞「開く」(~を開く)も
四段活用なので、どちらの場合も「開けり」「開きたり」を使うことができます。

ただ、古語辞書によれば「(花が)咲く、ほころびる」「(天地が)始まる、起こる」といった意味で使う自動詞「開く」は、カ行下二段活用(け・け・く・くる・くれ・けよ)となり、「り」を使うことができません。連用形「開け」に「たり」がつきます。「天地(あめつち)開けたり」といった具合に。

サ変動詞も見てみましょう。サ変動詞は(せ・し・す・する・すれ・せよ)と活用します。「愛す」の場合、

ルール①により、連用形「愛し」+「たり」→「愛したり」
ルール②により、未然形「愛せ」+「り」→「愛せり」

のどちらもOKです。

「り」を使うときのみ、動詞の活用の種類にご注意ください。

 

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