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カテゴリー "いわこし"

『女優の愛と死』戸板康二 著(河出書房新社, 1963.12)という本を読んでいる。

明治後期から大正初期にかけて活躍した女優(あえて女優という)松井須磨子の評伝である。松井須磨子はレコードを出せば大ヒット、ブロマイドは飛ぶように売れ、松井須磨子を見るためにファンは劇場に押し寄せるといった、日本初のアイドルという存在であった。
最後、彼女はスペイン風邪で病死した恋人の島村抱月(妻子があった)のあとを追うように自死するのだが生き方そのものが演劇である(べた過ぎるくらいに)
先日仕事で東京に出張した際に早稲田の演劇博物館を訪ね、そこに併設されている図書館に調べものを依頼して、しばらくしてメールの返信があったのがこの本だった。

依頼内容は以下のとおり。
「松井須磨子の晩年に養女をひとりとっている。養女は将棋の木村十四世名人の妹で若子さんという。このことが書かれた文献を探してほしい」

結論から言うと、本には数行、彼女の遺書に「相当なことをして親のもとへ帰してくれとたのんでいる」との記載だけだった。
当時、若子の兄の木村名人はまだ14歳であり、関根金次郎(のちの十三世名人)の弟子になったばかりであった。その関根の紹介で大和郡山柳沢家当主の柳沢保恵伯爵邸に住み込みで書生をしていた。木村の実家は極貧の下駄屋で(朝、布団を質に入れ夕方引き出していたそうである)、若子を松井須磨子の養女にする仲を持ったのは柳沢保恵伯爵だったのではないかと思われる。これはあくまでわたしの推測である。

さて、松井須磨子が亡くなった後、若子はどういう生涯を送ったか。

「若子は、須磨子の死後実家に帰り、紆余曲折を経て、うなぎ職人の川上八三郎こと川上梨屋と結婚した。川上梨屋は俳句結社「春燈」に所属した俳人で、若子自身も俳句をつくるという。」
https://www3.hp-ez.com/hp/kikuno/page10

という記述がネットのサイトに見つかった。川上梨屋は久保田万太郎の弟子である。

また若子さんの血縁の方がわたしの知人におり(若子さんから見て姪孫)彼女の話では木村十四世名人の葬儀には、若子さんは参列されていたそうである(1986年)木村名人が亡くなられたのは81歳だから、そこから考えると70代後半であったろう。

木村十四世名人、松井須磨子、川上梨屋(久保田万太郎の弟子)という歴史上の人物をつながりの中に若子さんがいる。若子さんの意思には関係なく一時代の文化が傍を流れているような、その人生に興味があるのだが、しかし、これ以上のことはわからない。もしかしたら俳句関係の人に聞けばそのつてからわかるのかもしれないが。

実はこのネタ、先月号から始めた「囲碁・将棋の歌」用にあたためていたのだが、まとめようがなくこのブログで書くことにした。

最後に川上梨屋の俳句をあげて終わる。(短歌結社のブログなのにすみません)

どこをもって故郷となさむ枯木に日/川上梨屋

いわこしです。
先週、両親と日光へ旅行に行ってきました。
東照宮から中禅寺湖へ二泊三日の旅。
東照宮は家康好きの母の希望、中禅寺湖は日本で一番標高の高い湖と日本百名山の男体山というロケーションに私が惹かれて決めました。
決めたのは2月上旬で、今年は暖冬ということもあり、
ひょっとして旅行に行く頃には桜もちらほら咲いてなんて思っていたのですが、
この日は突然の寒波で中禅寺湖は雪の降る猛烈な寒さ。
ただ、逆に雪の降る湖と雪の山稜という絶景が見られてそれはそれで両親にも喜んでもらえました。

さて、古今歌人は旅に出ると歌をつくります。
いや、歌をつくるために旅に出るといってもいいかもしれません。
わたしも歌ができずに困ったら山に登るか、プチ旅に出ます。
今回も旅の準備を歌い、まだ行ってもいない旅のうたを作ったりしていました。   (いいのか?)
それから、今書いているこのブログのネタとして。
たびに出る前に中禅寺湖をうたった歌人っていないかと調べていたところ、                   いました。日光は名所だけに何人も有名歌人が歌っています。
正岡子規、若山牧水、与謝野晶子。

漂泊の歌人、若山牧水は「みなかみ紀行」(1924年出版)で、日光、中禅寺湖を訪れており、中禅寺湖を歌っています。
(今回は訪ねられませんでしたが、日光に歌碑もあるようです)

裏山に雪の来ぬると湖岸の百木のもみぢ散りいそぐかも
見はるかす四方の黒木の峰澄みてこの湖岸のもみぢ照るなり
みづうみを囲める四方の山脈の黒木の森は冬さびにけり
下照るや湖辺の道に並木なす百木のもみぢ水にかがよひ

わたしが今回行ったのは冬なので季節が違いますが、それでも歌と実景が重なって、
より臨場感を持って味わるようになりました。

歌で旅もこういった楽しみ方ができるという発見でした。

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