百万遍
「塔」2015年2月号の「特集 『塔事典』を読む」の中で、大島史洋さんが「感想いくつか」という文章中で、塔事典についてこんなことを書いている。
「歌集・歌書・書名索引を見ていて、永田和宏の歌集『百万遍界隈』が三か所に出てくることを知り、それらを引いてみたが、当然のことながら歌集としてだけ取り上げられていた。それでいいのだが、私は百万遍ってどこだ?と思ったのであった。」
確かに塔事典を探してみても百万遍という地名は載っていない。百万遍は京都市内の南北を走る東大路通り(祇園や八坂神社付近を通る大きな通りである)と、東西を走る今出川通り(東端の銀閣寺から、京都大学、出町柳、同志社大学、立命館大学を結ぶこれまた大きな通り)の交差する地点だ。南東側には京都大学が面している。今出川通りを銀閣寺方面へ少し登れば、北側に北部キャンパスへの入り口が見えてくる。(写真は、北東側から南西側に向けて撮影した画像。安いドラッグストアが店を構えている)
その名前の持つ不思議な詩性から、京大出身の歌人は一度は短歌に百万遍を詠みこもうとするのではないだろうか。
群像は百万遍をながれゆきとどまる側がもっともさびし(永田紅『北部キャンパスの日々』)
褪せる、には対語はあらず標識の〈百万遍〉の字の青が見ゆ(大森静佳『てのひらを燃やす』)
大学に通うことと百万遍を通ることは切っても切れない関係なのだ。なんの変哲もない大きな交差点だけれど、(ほんとうに大きいんです。北西側に特にスペースがあって、夜には飲み会後に行きどころを失いたむろしている学生がたくさん。)そのなにもない空間が大学生活を象徴するような感じもする。
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