百葉箱2019年2月号 / 吉川 宏志
2019年2月号
公金を使つて海を埋めたてる私人とはだれ 海が問ひたり
古堅喜代子
沖縄県は埋め立ての承認を撤回したのだが、行政不服審査法を用いて、国は辺野古の工事を再開した。しかしこの法は、「私人」の救済が目的。国が私人として不服を訴える形になっているのだ。知識がないと理解しにくい歌かもしれない。ただ、結句によって、詩の言葉になっている。
運転手の好みあるらん並びいるショベルカーの腕の角度は
鈴木健示
一見バラバラに見えるが、そこには、運転手たちの癖やこだわりがあるのではないか、と想像する。なるほど、と思わせる一首。
足指に力を込めて下るとき讃岐平野はゆっくり上がり来
鎌田一郎
山を下りるにつれて、眼下の風景はだんだんと浮き上がるように見える。「讃岐平野」という言葉によって、スケールの大きな一首となった。上の句の身体感覚も良い。
パステルの青がお前のように痩せもう絶対に海を描かない
頬 骨
青の色彩がなまなまと迫ってくる。すっきりと解釈するのは難しい歌だけれど、きりきりとしたリズムによって、「お前」への愛憎はまっすぐに伝わってくる。
これだけはと取り置きし物改めて見ればわずかに名残りの差あり
米澤義道
捨てられなかった物の中にも、愛着の差があるという。微妙な心理を、散文的にさらりと歌っている。こういう渋い味わいのある歌もいい。
陣痛はあれど刻々と死を待つ崖の上からゆらゆらと下を見る
坂村茉里子
死産だったのだろう。リズムが大きく崩れているが、それを必然と感じさせる、圧倒的な力がある(上と下の両方あるのが、ややくどいが)。虚無感の闇に落ちていくようで、底知れぬ印象を与える一首だ。