八角堂便り

「歌仙 in 金沢」顛末記 / 三井 修

2024年5月号

 昨年の「国民文化祭」は石川県が当番県で、その中の短歌大会は哲学者・西田幾多郎の出身地であるかほく市の石川県西田幾多郎記念哲学館で開催された。講師は「塔」の永田和宏前主宰であり、私も選者の一人として参加した。今回の能登地震で記念館に被害があったのか気になるのだが、今のところ同館の公式サイトにもネット上にも情報がない。
 主催者から前もって応募用紙を沢山送ってきたので、周囲の人に配布したら、塔会員や私のカルチャー教室の受講生を中心に、七名が石川県まで行って大会に参加することになった。みんな歌詠みであるから当然短歌は作るのだが、今回は何か面白いことをやろうと思って、歌仙を巻くことを提案した。歌仙は連歌の形式の一つであり、本来は二枚の懐紙を用いて、初表六句、初裏十二句、名残表十二句、名残裏六句、合計三十六句続けるのだが、私はエクセルを使って用紙を作成した。更に、それぞれの句の記入欄の横に私が調べたヒントも書き加えた。例えば「発句」の欄の横には「や、けり、かな、などの切れ字を用いるのが好ましい」とか、初裏の三句目(雑)のところには「恋句はこのあたりから出すのがよい」とか。尚、この時苦労して作成した用紙はまだ私のパソコン上にあるので、関心のある方はご連絡いただければメール添付でお送りできる。
 当日は、かほく市での大会の後、金沢に移動して、「赤玉」という金沢おでんの老舗で懇親会を行いながら、歌仙を巻いた。因みに、金沢おでんは地元の人のみならず観光客にも人気で、「赤玉」のような老舗はいつも長い行列が出来るが、今回は幸いにして私を入れて八名の予約ができた。
 懇親会では地酒を飲み、おでんを食べながら、用紙を順番に回していく。自分のところに回って来た時だけ、盃と箸をおいて、前の句や用紙のヒントをさっと見ながら素早く自分の句を記入して、隣の人に回す。歌仙を巻くのは私以外の殆ど全ての人が初めてであり、最初は戸惑っていたが、一巡二巡してくると、お酒の酔いも加わり進行も早くなってきた。そして、とにかく懇親会の時間内になんとか三十六句巻き終えた。
 出来栄えはともかく、初めての体験で三十六句巻き終えたということで、参加者全員が達成感に満たされて、ホテルに向かった。尚、私だけは最終の七尾線で七尾へ行った。翌日、七尾の街を久し振りに歩いたが、今回の能登地震で市内は大きな被害を受けたようだ。残念でたまらない。
 その後のことであるが、手書きの用紙を私がパソコンで清書して、参加者に配布した。更にこの後、「反省会」を兼ねてそれを読む会を開催する予定である。勿論、再度「懇親」をしながら。

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