八角堂便り

田舎暮らし断簡 / 池本 一郎

2012年8月号

八角堂便り   第四十四便

田舎暮らし断簡
池本 一郎

  平均寿命が一、二年といふ雀きて怠惰な胸のうち覗きこむ
                    外塚 喬『草隠れ』 

  一年が平均余命なりという雀の命ながきが八年  
                    石飛誠一『小鴨川』

 雀の歌は誰もが作る。それだけ日常身辺に人間の生活とともにある。チュン
チュン。物心ついて最も早く憶える鳥である。ところが近年その姿がめっきり
減少した。どこへ行っても話題になる。
 岩手医科大と立教大のグループが昨年推計した数字だと、国内の個体数は21
年間で約6割も減少しているそうだ。
 掲出歌のように、もともと短命である上に生命力も弱いのだろうか。豊島ゆきこ
「一日のみ雀を飼ひし日のありき子を楽しませ一日で死にき」(塔2月号)。
 雀の涙はごく僅かなもののたとえ。本当は悲しくて、かわいそう。わが田は
近年案山子を立てない。食うだけ食うさ。

  雪椿落花赤赤と土に敷く赤赤赤とまた落つる花
                     恩田英明 個人誌α「死灰」

 前作に「落ち椿の花敷くうへを踏み渉るひややかに蹂躙をわがなすごとく」が
ある。踏み渉るほど赤い花が多数落ちる。雪椿は東北・北陸の日本海側の山地に
分布するというが、恩田英明は新潟県上越市が郷里。「もう奥のないどん詰まり
の部落に生家がある」と書く。雪椿が沢山植わっていて椿の家と言えば分かるそう
だ。「死灰」は久々に帰郷した連作。

 私の鳥取は雪椿はないが、庭には親父が植えた薮椿がある。10年で樹高は3m
くらいか。冬の半年、真っ赤に咲き落花する。数限りない。数年前ふと思いたって
数をかぞえた。毎日拾い集め、集計する方法で。歳々に増え、今年は2278個と
いう数字となり、驚嘆した。
 時々チャドクガが発生する。2cmほどの幼虫に一匹50万本の毛があるそうだ。上
には上があるんだな。

  軍手、ハンガー拾ひてゆけり巣作りの鴉の落とし物と聞きつつ
                     梅内美華子『エクウス』 

 鴉は多くの人の興味や関心をひく鳥。嘴や足まで一点隙なくまっ黒で造物主の
最高傑作の一つかも。これほど男女差なし(公平)、吉凶相半ば、という生き物
もまれだ。線路に石を積むとか、ビヘイヴィアがとにかく独特でナゾめく。
 巣にはビー玉や眼鏡まであると聞く。裏のわが畑にゴルフ球が落ちていて、これ
も鴉の落とし物かと考え、悩む。

  金鶏菊かの日鹿屋に咲きしとふ特攻花と聞くは悲しも
                     山本勉 朝日鳥取歌壇 

 朝日新聞鳥取版の歌(池本選)。その後も同氏の「鹿屋より飛びたる若きを
見送りし金鶏菊は今うとまるる」を選出した。オオキンケイギクは北米原産の
キク科の多年草。5~7月に鮮黄色の花をひらく。繁殖力が強く今や道端など
にもやたらに目だつ。生態系対策のまっ最中。
 鹿屋基地で、特攻兵が最後に目に焼きつけた祖国の花。特攻花と称美された。

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