八角堂便り

二年が過ぎて / 山下 洋

2013年4月号

八角堂便り  第五十二便

二年が過ぎて 
山下 洋 

 
 二月、寒い日が続く。窓の外では、また雪がちらつきはじめた。さきほど散歩して
いたら、隣家の山茶花の植え込みに目白が数羽、蜜を吸いに来ていた。
 昨日、四月号の選歌後記を書き上げて、メールにて送信。やっと、この原稿に取り
かかることにした。
       *
 最初に選歌させていただいたのが、二〇一一年一月号分。その歌稿が送られてき
たのが二〇一〇年十一月のはじめだったので、二年余りが過ぎたことになる。
 松山の全国大会の懇親会で、新選者と紹介されたときにも申しあげたのだが、余り
にも思いがけないことだったので、とまどいも大きかった。自分の人生の、わがコン
パスの範囲内で、「選者を拝命する」ことなどは、まったく想定外の出来事だった
ことは確かである。

 ともあれ、お引き受けしてまった。それを機に、毎月の生活スケジュールは一変
することとなる。
 月末から月初めにかけて、歌稿の受付をしてくださっている方々から原稿用紙が
送られてくる。毎回百枚前後。すべてに十首書かれているわけではないが、およそ
千首ということになるだろうか。自分の手元に置くのは一週間余り。十日頃には
永田さんにお送りする、のがとりあえずの目標。

 今のところ、すべての歌を三回ずつ読むことにしているので、一日あたり三千
割る七の、平均して四百首強。日曜は長く時間を割けるのだが、平日は持ち帰りの
仕事があったりすると、ちっとも手の付けられないこともある。往々にして、深更
もしくは昧爽の作業となる。わからない物の名、動植物名・地名・人名など、電子
辞書で探しきれないときは、ネット検索することが多いので、パソコンに向かう
時間は長くなった。

 一度目に気付かなかった良さが、二度読んですっかりこころに染み入ってくること
もよくある。作者の気持ちに触れることができたようで、そんなときは、本当に
うれしい。三回目を終了したら、付箋を貼った作品をパソコンに入力(後日、選歌
後記を書くため)。配列順を考えたのち、発送となる。数日、間を置いて、なるべく、
毎月半ば過ぎの編集割付作業までには後記を脱稿するのが次の目標。
 そんなところが、この二年のわたしの日課ならぬ月課となったのである。
       *
 二年前の冬、母は癌を患っており、毎週一度の通院に付き添っていた。母の診察、
施療を待ちながら、待合室でも歌稿を見ていた。母は二月末に、まったく立ち上がれ
なくなって、ついに入院。一昨年の五月号の選歌は、病室のベッド脇だった。原稿
用紙を前にしているわたしに、「無理せんときや。」と母が言った。間もなく三月。
母の三回忌がやってくる。

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