『神経質を喜べ』 / 梶原さい子
2026年2月号
小学生の頃、宮司である祖父の書き物部屋で過ごす時間が好きだった。棚から本を引っ張り出しては、分からないなりに眺めることも多かった。その中で特に印象深いのは、生まれ変わりの本。江戸時代や明治時代などの多くの事例も載っているとても古い本だった。そして、『神経質を喜べ』という新書。今なら自分はズボラだと断言できるが、当時は子どもなりに気を遣う場面があったのだろうか、タイトルに惹かれ、幾度も手に取っていた。
そのことはすっかり忘れていたが、先日、ふとしたことからこの本の存在を知り、懐かしくなって求めてみたところ、著者が斎藤茂太だったので驚いた。言わずもがな、茂吉の長男である。
一冊は、精神医学の臨床医である著者が、神経質とは何かを語った後に、自己、対人関係、恋愛関係の三領域についての悩みを分析し、解決策を分かりやすく示すという構成になっている。
大真面目なのだが、どこか面白くて、例えば、「★眠れない人へ」の回答の締めは、「本当の不眠が襲ってきたら、それはどんなに素晴らしいことだろう。六時間も七時間も余分に仕事ができるのだから。」であるし、「★手紙で愛の表現ができずに悩む人」には「ああでもない、こうでもないと、ラブレターに手を入れ、あっちを消し、こっちをつけ加えて『苦しむ』。それ自体がまことに楽しいものではあるまいか。」と述べていて、ん?と思いつつ納得させられる。幾分でも大らかな気持ちになれるのは確かだ。
そうして、最後の章がとても面白かった。「斎藤家四代の性格の活かし方」と題した、茂吉の養父紀一から、茂吉、茂太、その子茂一に至るまでの、四代にわたる一族の性格分析である。クレッチマーの分類を踏まえた、「内閉性」、「同調性」、「粘着性」、「自己顕示性」、「神経質」の五つの性質のバランスにより判断している。それによると、紀一は同調性が非常に強く、自己顕示欲がある。この性格が事業家として、青山脳病院を建てさせた。反対に、その子茂吉は、同調性はゼロで、粘着性と神経質的要素が大きく張り出し、内閉性を持つ。なるほど、執念深いとも言える仕事ぶり、こまやかな観察の目はここに拠るものか。内閉性については、著者は、「私はこの内閉性が文学をやる者の『必要条件』だと思っている」と断じている。
ところが、茂吉の性格は文学者としては素晴らしくても、妻輝子とは合わなかった。そのことはこの分析からも見える。輝子は父紀一と同じく、同調性が著しく、神経質な要素はゼロだった。
ともあれ、本の内容はすっかり忘れていたけれど、小さい頃に、こうして茂吉に出会えていたなんて嬉しい。『神経質を喜べ』に喜んでいる。