短歌時評

運用と手順㉑ / 吉田 恭大

2021年10月号

 みなさまいかがお過ごしですか。緊急事態宣言下でもオリンピックがあり、パラリンピックがあり、本当はそれよりも手前にわたくしの生活があるとどこかで思っていたのだけれど、実際はそんなことはなかった。
 時評、の看板の掲げられたこの欄では、度々インターネット上での短歌の動向について取り上げている。それについては批判的なご意見を頂戴したこともあり、また私自身の視野で言及できるものだってあくまでネット上のごく一部でしかないが、それでも記録に残さないよりは多少なりとも言及したほうがよいと、回を重ねるごとに考えるようになった。
 オフラインのイベントひとつでさえ、数年前のネット上のログを手繰るのは難しい。情報はプラットフォームに依存するため、サービスの終了などがあれば個人の感想含め記録はすぐに散逸する。たとえば現在、歌人でも多くの人が使用しているウェブサービス「note」では、公式にデータをエクスポートする機能が実装されてないため、もし何らかの事情で……サービス終了以外でも、例えばアカウントが凍結されたり……した場合、そこに書き溜めていた歌や評は容易に失われてしまう可能性がある。(そもそもプラットフォームはユーザーの情報の可搬性を保証するべきではないか、という議論もあるがここでは割愛する)かつては更新が止まり、打ち捨てられたままになっていた歌人たちの古の個人サイトや掲示板も、この数年でずいぶん消失してしまった。
 以前当欄で「(表現媒体の)手段が変われば目的も自ずと変化していく」ということを申し上げたが、インターネットで作歌活動を始めた歌人たちが、同人誌を出したり、ネットプリントを出したり、あるいは結社に入会したり、というような流れを見るに、紙媒体を前提とした作品発表は相変わらず根強く残っていくのかもしれない。
 ということを踏まえて、オンライン短歌市、の話をする。このイベントは橋爪志保、谷じゃこ、御殿山みなみ……ネット内外で企画経験が豊富な三人の歌人が主催、二月二十一日に第一回、八月二十九日に第二回が催された。参加者はピクトスクエアというオンライン即売会用のウェブサービスにログインし、そこでアバターを使って擬似的に他の出展者や来場者と交流したり、同人誌を各出展者のブースを介して通販で入手できる。
 現在のコロナの状況下で、文学フリマのような活字系のイベントに限らず、同人誌即売会全般は開催の自粛を余儀なくされている。(コロナを前提としなくても、ここ二年についてはオリパラ関連の施設の確保による、貸し館イベント全般に対しての影響もあった。)そんな中で、ネットを介してではあるが、日時を決めて一堂に作品をやりとりするこのシステムは、催事としての人の集まる感覚を思い起こさせる。即売会の雰囲気を片鱗でも感じることができた。
 また別のイベントの話。八月二十二日に久石ソナの第一歌集『サウンドスケープに飛び乗って』のオンライン批評会に参加した。ZOOM でのトークイベントや批評会はこの二年で頻繁に開かれるようになり、実施に関するノウハウも様々に共有されている。歌集批評会、という枠組みについて言うならば、パネラー以外の参加者が積極的に発言できるような仕掛けを、例えばチャット欄などの別チャンネルで確保し、会場での質疑の代わりとするなど、工夫次第でオンラインならではの運用ができるかもしれない。
 定型詩のフレームそれ自体は、媒体が変わったところで目に見えて変化するような類のものではないだろう。けれども、作り手たる人間の側は、詩形そのものに先行する形で、メディアやガジェットの影響を確かに受けているはずだ。わたしたちの身体が詩形の何に影響を受け、あるいは影響を及ぼしているのか、引き続き考える必要がある。

ページトップへ