短歌時評

運用と手順⑦ / 吉田 恭大

2020年8月号

 いわゆる「東京アラート」解除の後、六月の後半から都内の感染者数は順調に増加している。それを受けて六月三十日に都は指標を改定、とうとう指標となっていた筈の数値基準すらなくなってしまった。都内の劇場や映画館は、おおよそ六月中には条件付きで再開。公共施設についても、各々でガイドラインを設定し、利用目的や人数制限などを設けながらおそるおそる運営を再開している。いずれにせよ、「社会全体で感染リスクは上がっているが、万が一感染者が出た場合、個人・集団を問わず社会的にバッシングされかねない」という恐ろしい状況である。
 歌会も、地域によっては対面での開催を再開している。個人的にも六月二十八日に「新しい生活様式」を踏まえたうえで歌会のためのガイドラインを設定し、都内で歌会を開催した。詳細はウェブに纏めたが、本稿でも記録として若干の所感を残しておきます。
 まず、ガイドラインについては、公共の集会施設の利用を想定したうえで、
①「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(公益社団法人全国公民館連合会・5月14日策定、25日一部改訂)
②「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン(公益社団法人日本図書館協会・5月14 日策定、26日更新)
③「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(公益社団法人全国公立文化施設協会・5月14日策定)
の三つを主に参照した。いずれも五月時点での基準である。ガイドラインの要点は以下の通り。
◦会場での検温、手指の消毒の実施
◦マスク、フェイスシールドの着用
◦対人的な距離を充分保った配席
◦会場内での水分補給を除く飲食の禁止
◦参加者全員緊急連絡先の収集
 加えて、「万が一体調に不安があるときは無理せずに欠席を」というアナウンスを徹底した。検温・消毒の実施については、歌会に限らず今後さまざまなイベントで周知徹底が進むものと思われる。
 ネックとなったのは、席間の距離とマスク・フェイスシールドであった。歌会は席間距離八十センチ、対面距離二メートル、総参加者数九名で開催した。マスク・フェイスシールドを着用した上で議論をしようとすると、予想以上に声が通らない。飛沫防止策のために逆に声を張り上げないといけない、という矛盾した状況であった。
 歌会中にマスク+フェイスシールド、フェイスシールドのみ、マスクのみ、など何パターンか試してみた。フェイスシールドに関しては不便さと効果を天秤にかけながら、少なくとも絵面としての「やっている感」以上には意味がないように思えた。参加者からも、頭部の締め付け、視界の狭さ、息苦しさなど不快感について多く指摘があり、長時間の利用には向かないことがわかった。
 今後の一般的なフェイスシールドの使用場面としても、不特定多数の人と対面する店頭での接客業に限られるのではないだろうか。劇場や映画館、百貨店などの受付では既に導入が進んでいる。
 
 「ウイルスというのは人と人がどのように接するかが根本にある。そのことから必然的に人と人との関係がどうあるべきか、どうあったのかを考えざるを得なくなった」と、「歌壇」七月号のインタビューで永田和宏が答えている。歌会の開催の是非についても同様だが、これまでの生活においても、我々はどのようなリスクやメリットを普段「意識せずに」集まっていたのか、改めて多くの方に考えていただけたらと思う。現場からは以上です。
  人と人の関係さもあれ人の在ること疫病のおこりなるべし
                  香川ヒサ「グローバル」(「歌壇」七月号)

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