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沈丁花いまだは咲かぬ葉がくれのくれなゐ蕾匂ひこぼるる 若山牧水『朝の歌』

三月に入って、一気に春めいてきた大阪です。

この時期、楽しみなのが沈丁花。
通勤途中にある病院の駐車場の隅っこにひっそりと植わっていて、普段は忘れているのですが、
春のはじめに上品な匂いが漂ってくると、「あ、そうだここは」と
沈丁花スポットだったことを思い出し、ひとりほくそ笑むのです。

若山牧水は沈丁花の歌をいくつか作っていますが、
「花二三」という短編にも沈丁花のことを書いています。

 

 梅のかをりを言ふ人が多いが、私は寧ろ沈丁花(ぢんちやうげ)を擧げる。梅のいゝのは一輪二輪づつ枯れた樣な枝の先に見えそめた時がいゝので、眞盛りから褪(あ)せそめたころにかけては誠に興ざめた眺めである。そしてその頃になつて漸く匂ひがたつて來る。もつとも一輪摘んで鼻の先に持つて來れば匂ふであらうがそれでは困る。何處に咲いてゐるのか判らない、庭木の日蔭に、または日向の道ばたに、ありともない風に流れて匂つて來る沈丁花のかをりはまつたく春のものである。相當な強さを持ちながら何處か冷たいところのあるのも氣持がよい。 「青空文庫」より引用(底本は『若山牧水全集 第八巻』雄鶏社)

沈丁花のひっそりとしたたたずまいと甘く上品な香りに、牧水も春を感じていたのだなあとうれしくなりました。「どこか冷たい」というのも分かる気がします。

春本番まで、まだもう少し。沈丁花の香りを楽しみたいと思います。

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