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三週間ほど前、朝刊に長谷川郁夫氏の訃報をみつけた。享年七十二。
学生時代に出版社小澤書店を創業された方である。すぐに思い出したのが、
「前川佐美雄全集」。佐美雄の『植物祭』『大和』『捜神』は、現代歌人
全集に収録されているので読んでいる。だが、他の歌集、たとえば『天平雲』、
『積日』などを読みたい。佐美雄の自選集『方響』に、一部を読むことが
できたが、それだけでは物足りなく思っていた。
やがて、小澤書店から「前川佐美雄全集全五巻」が刊行されると知った。
四半世紀くらい前になる。
購入したい、と思ったのだが。ちょっと躊躇したのは、お値段。
一冊一万円プラス消費税。当時は三%だったけれど、やっぱ高いよね。
えいっと、それこそ山から飛び降りるつもりで買いました!まず第一巻。

  たつた一人の母狂はせし夕ぐれをきらきら光る山から飛べり
                    前川佐美雄『大和』

一巻には、天皇を神格化し、戦争に高揚する作品を収めた『日本し美し』
等の歌集を収められていた。この歌人の知らなかった作品群に驚き。
短歌の韻律がそそのかす負の側面か、と思ったりもしたのだった。
それでも、『天平雲』をじっくり読めたことが一番の収穫。

  山上の湖(うみ)の水ひくく漏れて来てまたつくる青くちひさなる湖
                   前川佐美雄『天平雲』

全集の第二巻までは歌集篇だったので、第二巻までは頑張って買おう、
と思っていたのに、いつまでも刊行されず。2000年、小澤書店は倒産。
私の手元にはこの一冊だけが残りました。

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