ブログ

こちらは、直径五センチ足らずの胡桃の実。びっしりと彫刻が
施されていて、二十人以上の人間、何棟かの建物、寅などの動物など
も見て取れます。だいぶ前に、私の家族が中国の知人から頂いたもの。

この胡桃の存在を突然思い出したのは、ナンシー関の『ナンシー関リターンズ』を
最近読んだから。冒頭の「彫っていく私」という自伝に驚愕したのです。

彼女の父はプエルトリコ系中国人で、代々米粒に仏像を彫る職人の村に育った。
だが、一家の主は、四十歳になると決まって発狂して死ぬ。
来る日も来る日も米粒に彫り続けていると、仏像に魂を吸い取られ、気が狂うから
と知った父は、18歳の時に村を逃げ出して、日本に密航する。築地で知り合った
日本人女性と駆け落ちして北海の離島へと逃げ出し、そこでナンシー関が生まれ・・・。

まるで怪談のような自伝、恐ろしくも魅力的でのめり込むように
読んだのですが・・・。どうもフィクションらしい。この書に付されている
彼女の略歴には、「青森市でガラス店を営む日本人の両親のもとに生まれる」
と明記してあるんですからね。

でも「米粒に仏像を彫る」ということが全くの嘘ではないかも、と思ったのは、
この胡桃の彫刻のことが脳裏にあったからでした。頂いたときはちょっと、
不気味な感じがして、よく見れなかったのだけれど・・・。
亡きナンシーさんを偲んで、この度はじっくりと手にとって見ました。

胡桃彫刻の歌は見つからなかったけれど、胡桃で始まる大好きな歌を。

 胡桃ほどの脳髄をともしまひるまわが白猫に瞑想ありき
               葛原妙子『原牛』

コメントを残す

ページトップへ