八角堂便り

田舎暮らし断簡 ―歌の底ひ⑦ / 池本 一郎

2014年11月号

八角堂便り―― 第七十一便
 
  あなたには何から話さうタカサブラウ月が出るにはまだ少しある
                河野裕子『葦舟』
 
 タカサブロウはキク科の一年草。河野裕子は自歌自注で、木綿縞の紺の着物を着た男の子のようでとても魅かれる、と書く。水田の雑草だが、とくに私の田はよく成育し一mにもなる。白い小花は可憐だが、私には困った雑草。自注では、月が出る前の独特の暗さを、静かで深いと記す。農作業で月の出る前の手もとの暗さを実感している私は、大いに共鳴し、僧っくき高三郎と合わせて、一首を秀歌と受容する。
 
 あの裕子忌日(8月12日)は丁度出穂日だった。大事な農事日誌に記した。その日、タカサブロウも一段と印象深く見えた。それは年ごとに強くなっていく。歌は生きている。
 
  おきな草口あかく咲く野の道に光ながれて我ら行きつも
                斎藤茂吉『赤光』
 
 おきな草(翁草)はキンポウゲ科の多年草。春、10~20㎝の花茎を伸ばし、茎に一花ずつ下向きにつける。花は鐘形、赤紫色の6弁花。花の後、白い長毛が風にそよぐ。それで翁草の名があるが、やはり花の色や形が最も注目できる。「口あかく咲く」は、鐘形の口とそして濃い紫がかったビロードのような感触の色を表現したもの。
 
 おきな草は昔は山野に多かったそうだが、今や絶滅状態。私の庭に植えた3株も、一株となった。余り手入れしてはいけないそうだ。その一株、今春は何と145個の花をつけた。この伯耆より各地歌会に持参し珍重された。株分けしたいが恐くて出来ない。アンタッチャブル!
 
  社宅跡に社宅は建たず発電用パネルならんで昼をはたらく
              真中朋久「短歌研究」7月号
 
 作品連載中「陽光」の一首。この歌は東京歌会で先に読み、記憶に残った。
 
 倉吉市近郊を走行していると、思いがけず新設の発電用パネルに出あう。梅の畑が今日はパネルが光って。企業の用地の活用で、年に数千万円の収益とか。最も投資効率がよく、社宅建設よりずっといい。社宅をつぶしても社宅は建たず、だ。
 
 鳥取市の市民団体がポニー牧場の屋根に太陽光パネルを設置し、市民共同発電所が稼働した。私も一口出費し、もう利益返還の野菜が送られてきた。
 
 こういう発電所が全国で500基を超えるらしい。岡山県や山口県にもある。一方で、大企業のメガソーラー(大規模太陽光発電所)も進捗。最大は大分市にパネル34万枚の設備が運転した。鳥取の市民発電所は45枚。ケタ違いだが笑っちゃいげない。ポケットマネーで全国隈なく網羅し尽したら、もしや原発に代わりうる?(えない?)、などと考える。

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