八角堂便り

歌の小道具 / 三井 修

2012年5月号

八角堂便り 第四十一便

歌の小道具 
三井 修 

 短歌を作るスタイルは人さまざまのようだ。最近は、初めからワードやエクセルを
使って整理している人もいるようだが、私の場合は、三十年前に歌を作り始めた当時
から、かなりアナログ的なスタイルで作っていて、今までほとんど変っていない。

 先ず、歌のメモは、かつて勤務していた会社の何の変哲もない黒い表紙の普通の
ビジネス手帳を愛用している。退職した今も「社友」ということで毎年送ってくれる。
これを常に持ち歩いて、その時の感動や思い付いた表現などを横書きでメモする。
出来るだけ五七、七五、五七五、七七などの短歌形式の断片でメモするように努める
が、時には初めから五七五七七の短歌形式で浮かんでくる時もある。この時の筆記
用具は原則として鉛筆かシャープペンシルである。

 いつもその手帳を眺めながら、断片同士を繋ぎ合せたり、場合によっては、あちら
の五七五と、違う時にメモした離れたところの七七を線で繋いだりして、一首に纏めて
いる。それが意外と成功する時がある。元々、走り書きで、書いたり、消したり、線を
引いたりしてあるので、結構読み難くなっているが、一年一冊、もう三十冊も溜まって
いる。

 それを何日かごとに完成された作品に纏めながらノートに転記する。ノートに転記
すれば手帳の方の作品は上から横線を引いて消している。ノートはずっと東京銀座
の伊東屋で買っている。最初に買いに行った時、伊東屋で一番高価なノートを購入
した。布張りのカバーで、クリーム色の高級紙を使ったものであった。最高級のノート
を買ったのは、このような立派なノートには仇や疎かな作品は書けない、作品も最高
のものを書かなければならないと自分に言い聞かせるためであった。横書きノートの
左側にボールペンで作品を書き、右側の余白には、その作品をどこに提出したかを
赤いボールペンで書き留めておく。これがいわば、私の「作品台帳」とも言うべきもの
である。

 ノートは一、二年で一杯になるが、また伊東屋で同じものを買い求めていた。
ある年、同じものが店頭になかったので、店員に実物を示して「これと同じものを
欲しいのですが」と言ったら、店員が「これはもうメーカーで製造中止となって
いますが、一冊だけ在庫があるので、お売りします」と言われ、それを買った。
その次からは、やはりその時点で、店頭の最高級と思われるノートを買っている。

 作品を提出する時期、即ち、「塔」月例作品の提出時期や、総合誌等から依頼が
あった時の締め切り近くになると、その「台帳」を開き、全体の構成を考えながら
原稿を作る。「塔」には、雑誌綴じ込みの原稿用紙にボールペンで手書きだが、総合
誌の場合はパソコンを使い、ワードで全体のバランスを考えながらフォントの大きさ、
行数字数などを決め、横書きで入力したあと、縦変換して印刷している。

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