八角堂便り

新かな旧かな(8)カタカナ表記について / 花山 多佳子

2014年3月号

八角堂便り 第六十三便
 
 先日も校正のときに、旧かなのカタカナ表記はどう取り決めされてましたっけ、という話が出た。これは実際に作歌するときに、けっこう悩ましい。校正上も悩ましいのである。
 
 いちおう原則的に外来語、外国語は「バット」とか「チューリップ」とか音便も小さくていい。日本語をカタカナで書く場合は、「バツタ」「ニツポン」「ラツキヨウ」と、音便も大きく書くことになっている。塔でも、その原則に従っている。でもこれは「バッタ」「ニッポン」でいいではないか、という考えもあり、そう表記している人もよくある。
 
  ニッポンはかくあるべしと言ひしこゑのウチナーヤマトグチは祖父(おほちち)
                              真中朋久 

  コハクチョウいまだも来ぬと告げられて中の海よりゆふぐれそめぬ
                              小池 光 
 
 これらは、うっかりやっているわけではなく、自然さを優先して、それでかまわないと思ってやっているわけである。「ニツポン」は「ニッポン」がいい。「コハクチョウ」は旧かなだと「こはくてう」か「コハクテウ」になる。読みにくい。ふつうはこういうときに漢字にするが、小白鳥とは書きたくない。
 
 もともと、戦前までは外来語、外国語であっても、音便、促音みな大きくしている。茂吉その他の歌人から拾うと「ヒツトラー」「パラシウト」「ピラミイド」「ロツクフエラア」「デツキ」「アヱ゛ニウ」(アベニュー)という具合である。
 
 それが戦後になるとまもなく、外来語の音便は小さく表記する人がかなり見られる。「ブラッシュ」「マッチ」「アスファルト」など、今の表記と同じだ。一方でもとのままの歌人もかなりいて、個人的にまちまちである。三十年代以降しだいに統一されてきたというところだろう。
 
 日本語のカタカナ表記は、かつては短歌では少なかった。少ない中で、これとても完全に旧かな準拠でもない。
 
  緑蔭(ミドリノカゲ)夢かたむけてのそりのそり風の流れへ白猫(ハクビヨウ)のあゆみ
                              加藤克己 

  半裸の女山の畑より答へたり「朝鮮稗チュウモンダ粉ニスルモンダ」
                             鹿児島寿蔵
 

  ローソクを灯すともなきしけの宿風専らに荒れて空飛ぶ
                             馬場あき子
  
 一首目は戦前の歌、二、三首目は戦後の歌である。旧かな表記なので「ハクビヨウ」は「ハクベウ」、「チュウモンダ」は「チフモンダ」、「ローソク」は「ラフソク」になるわけだが、そうはしかねたというところだろう。
 
 私自身は、日本語でもカタカナは「ラッキョウ」でいいと思うし、読みにくいのは、わかるように書いてもいいと思う。その際、原稿に指定するとかして。ラフに考えたいのだが、賛意が得られるかどうかは不明だ。

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