短歌時評

運用と手順⑫ / 吉田 恭大

2021年1月号

 一一月。緊急事態宣言、とか、東京アラート、とか言っていた頃はいったい何だったのか。あっという間に感染者数は当時の数値を上回り、わたしたちは相変わらず手指の消毒とマスク、自費でのPCR検査くらいしかやることがない。だれがいつ、陽性反応が出たとしてもおかしくない状況ですが、この原稿が掲載される頃にはどうなっているのだろうか。皆様いかがお過ごしですか?
 
 一一月二十二日、東京流通センターで一年ぶりとなる文学フリマ、第三十一回文学フリマ東京が開催された。(五月に予定されていた第三十回はコロナで中止。)
 昨年秋に開催された第二十九回は史上最多の約6000人の参加者数であったが、今回の参加者は速報値で約3000人とのことであった。当日、私は出店者側にいたが、実際には直前まで参加の判断を決めかねていた。周囲の知人にも参加を見合わせる方も多く、参加した人間も、めいめい消毒薬や除菌シートを用意して、できる限りの対策をした上で当日会場に集まった。
 一月十七日には第五回文学フリマ京都が開催予定ではあるが、状況的に無事に開催できるか難しいところだろう。文学フリマ、は現在日本各地で開催されている。これまで出店、来場されている方はご存じかと思うが、各会場ごとに運営が異なるため、開催の判断も各組織に任されている。
 
 二〇二〇年の各地の文学フリマの開催状況は以下の通り。
一月十九日   京都(第四回)   開催
二月二十八日  広島(第二回)   開催
三月二十二日  前橋(第四回)   中止
五月六日    東京(第三十回)  中止
七月十九日   札幌(第五回)   中止
九月六日    大阪(第八回)   開催
十月十八日   福岡(第六回)   中止
十一月二十二日 東京(第三十一回) 開催
 
 文フリに限らず、同人即売会などの人の多く集まるイベントにおいて、感染症対策のノウハウ自体は急速に蓄積されている。ブース間の距離の確保、試読スペースの廃止、入場口での検温と消毒、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の運用、会場全体での入場者数の制限など今回の東京文フリでも、運営スタッフがかなりの人数と時間を割いて対応にあたっていた。
 とはいえ人間が集まる以上リスクはあり、主催者側も参加者側もそれを承知の上でできるだけの対策をするしかない。
 この一年で、人間が集まるリスク、が分かりやすく顕在化した。
 
 「ウイルスというのは人と人がどのように接するかが根本にある。そのことから必然的に人と人との関係がどうあるべきか、どうあったのかを考えざるを得なくなった」と、「歌壇」七月号のインタビューで永田和宏が答えている。歌会の開催の是非についても同様だが、これまでの生活においても、我々はどのようなリスクやメリットを普段「意識せずに」集まっていたのか、改めて多くの方に考えていただけたらと思う。現場からは以上です。
 
と、昨年八月号の当欄で書いた。今振り返ると、この時の現場、というのは、まだ限られた前線、例えば己の職場としての劇場であったり、自分の運営する歌会やイベントのこと、を言えていたように思う。そこから半年経って、集まることのリスクと怖れはすっかり日常の一部となってしまった。マスクをして、手指を消毒し、体温計を額にかざして、果たしていつまでやっていけるかと思う。

ページトップへ