埋め草その3(松村)
1987年2月号、永田和宏「「桃二つ」原歌」。
世評高い作品というものがある。高安国世における
桃二つ寄りて泉に打たるるをかすかに夜の闇に見ている
という作品も、さしずめその典型的な一首である。岡井隆との論争によって有名になった一首でもある。その原型が、「桃二つ寄りて噴井に打たるるを」であることを、藤重直彦の保管する〈京都学生短歌会〉の詠草録によって、最近見つけた。
この歌は高安の第7歌集『街上』に収録されているもの。最初に歌会に出された際には「泉」のところが「噴井」であったというわけだ。「噴井」は「ふきい」または「ふけい」と読むらしい。
「噴井」と「泉」では随分と印象が違う。実際に京都の高安邸の庭には人工の池(?)があったそうで、それがこの歌の元になっているわけだが、それを「噴井」と詠むか「泉」と詠むかで、歌から受ける印象は大きく変ってくる。
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