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仲町六絵著『からくさ図書館来客簿 第六集 ~冥官・小野篁と雪解けの歌~』は、小野篁が京都の私立図書館「からくさ図書館」の館長を務める人気シリーズの6冊目。第24話から第29話までが収められている。

そのうち第24・25話の「椿小町」に、物語と絡めて河野裕子さんの歌が引用されている。

たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
脱皮とは一気におのれを裂く力背をたち裂きて蟬がおのれ生む

もう十年以上前のことになるが、仲町さんは「塔」の会員であった。
京都の歌会で一緒にやっていた時期もある。

「塔」2002年2月号を見ると、新樹集の最初に仲町さんの歌が載っている。

紅葉の山はあまたの草木の根に縛らるる土と思いぬ
肉体の長いところを繋げたいゾウならば鼻アサガオは蔓
バス停は立ち枯れそうに寒い場所三、二、一で猫背を直す
夜半使う針の尖りの黒ずみは疣潰さんと母の焼きしか
目を閉じてみても結局闇があるさて視覚なき貝のこころは
芝を踏み図鑑ひらいて天を指し末っ子だった星ばかり見た

発想が新鮮で、今読み返しても良い歌だなと思う。

『からくさ図書館来客簿 第六集 ~冥官・小野篁と雪解けの歌~』のあとがきには、こんなことが書いてある。

二十三歳の時、「NHK歌壇」で河野先生に歌を採用していただいて、何物にもかえがたい勇気を得ました。「私が注意深く綴ったこの言葉は、大勢に見せてもよいと先生が認めてくれたのだ」と。その数年後大阪に引っ越して歌が詠めなくなり、河野先生のおられた『塔』短歌会は退会してしまったわけですが――。

『塔』短歌会と河野先生が、書き手としての私の土壌を作ってくれたこと。河野先生が鬼籍に入られた数日後に電撃大賞の最終選考に残ったという連絡を受け、その後プロ作家になったこと。そして、歌をまた詠めるようになったことを、河野先生に伝える手段があったなら、と今も時おり夢想します。

「NHK歌壇」や短歌誌『塔』で何度も選評をいただいたのに結局散文の方へ進んだので、不義理をしているとは思うのですが。六年の月日が経ってようやく、悲しみと感謝を多少なりとも言葉にできました。あるいは、言葉を綴る仕事を続けていたからこそ、六年で済んだのかもしれません。

仲町さんが「塔」を辞めた時はとても残念だったのだけれど、こうして別の道で活躍しているのを見ると、本当に嬉しい。

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  • 仲町六絵 より:

    ご無沙汰しております。仲町です。
    ブログに取り上げてくださって、ありがとうございます。
    『からくさ~』第六集は、『塔』短歌会でお世話になったことをきちんと言葉にできた、私にとって記念すべき本になりました。
    七月から少しずつ、歌を詠めるようになってきてほっとしています。
    この記事を拝読して驚くやら嬉しいやら、ちょっとうまく言葉が出てこないのですが、ひとまずお礼まで……。

    • 松村正直 より:

      お久しぶりです。松村です。
      仲町さんが作家として活躍されていることは数年前から知っていて、
      歌会の後のお喋りなどで話題にしていました。

      短歌もまた詠めるようになってきたとのこと、良かったですね。
      河野裕子さんも喜んでいると思います。

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