「せし」問題
「塔」の割付・再校作業でした。二十数名でみっちりと…というより、おいしい差し入れをいただきながら、にぎやかに読みました。
今日話題になったのは、「せし」を直すかどうか。
例えば「愛せし」。これは正しいですね。サ変動詞「愛す」の未然形「愛せ」に、助動詞「き」の連体形「し」が付いています。これを「愛しし」とするのは誤りです。
でもサ変動詞は例外。通常は、助動詞「き」は連用形にくっつきます。
例1:「満たしし」=「満たす」(サ行四段活用)の連用形「満たし」+「き」の連体形「し」。これを「満たせし」とすると、文法的には誤りです。
例2:「乗せし」=「乗す」(サ行下二段活用)の連用形「乗せ」+「き」の連体形「し」。これは「乗せし」が正しいのでこのままでよいです。
サ変動詞とサ行四段活用の動詞を使う時に注意が必要なのです。が、誤用が広まって「愛しし」「満たせし」のような使い方も多く見られます。校正としては、直しているときりがありません。今日のところは作者の原稿の表記に従い、特には直さないことになりました。
ということで、誌面には間違った文法のまま載っているものもありますが、文語の「せし」を使う場合には、ちょっと立ち止まって、辞書を参照してみてください。
①使う動詞の活用の種類を確認(サ変か、サ行四段活用か)。
②使う動詞の活用形を確認。サ変なら未然形「~せ」+「し」=「せし」、
サ行四段なら連用形「~し」+「し」=「しし」
辞書の巻末には文語の動詞・助動詞の活用表がついている場合がありますし、「広辞苑」第6版には、文法表の載った別冊がついています。上の2ステップを踏むだけで、恥ずかしい間違いはなくなるでしょう。
人それぞれ「せし」が好きだったり「しし」が好きだったりと音の響きに好みがあり、誤用を気にしない場合も多々あります。が、誤用がどんどん広がるのを黙って見ているのもよくないですね。
以上、校正現場の悩みでした。
写真は、永田家の庭の大きな柿の木。まだ渋柿ですが、皮をむいてつるしておくとおいしい干し柿になるそうです。帰り際に「うまそうだな」と見上げていた数人に、
永田淳さんが脚立に乗って、もいでくれました。
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